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腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術による不妊治療

腹腔鏡下手術による不妊治療腹腔鏡下手術とは、腹部にあけた複数の小さな穴から内視鏡や鉗子などを挿入し、お腹の中で必要な検査・処置をする手術です。
開腹手術と比べて傷が小さく、月日の経過によって瘡はほとんど見えなくなります。
主に卵巣嚢腫・子宮筋腫・子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群の治療として、あるいは不妊の原因が不明である場合の腹腔内の観察のために実施されます。また、子宮外妊娠をした時の緊急治療として行われることもあります。
退院後はすぐに日常生活に復帰が可能であり、お身体へのご負担の少ない手術と言えます。

腹腔鏡下手術の適応疾患

卵巣嚢腫

卵巣に液体が溜まった嚢胞ができる状態です。大きくなると痛みや不妊の原因となることがあります。
卵巣嚢腫が卵巣の機能を妨げることがあり、排卵障害を引き起こすことがあります。腹腔鏡下手術で嚢腫を取り除くことで、正常な卵巣機能が回復し、妊娠の可能性が高まります。

子宮筋腫

子宮にできる良性の腫瘍で、場所や大きさによっては痛みや出血、不妊の原因となることがあります。
子宮筋腫が子宮内腔に影響を及ぼすと、受精卵の着床を妨げることがあります。腹腔鏡下手術で筋腫を摘出することで、子宮内環境を改善し、妊娠の確率が上がります。

子宮内膜症

子宮内膜が子宮の外に発生する病気で、激しい痛みや不妊の原因となります。
子宮内膜症は卵巣や卵管に癒着を引き起こし、卵子の通過や受精を妨げることがあります。腹腔鏡下手術で病変を除去し、癒着を解消することで、妊娠の可能性が高まります。

多嚢胞性卵巣症候群

卵胞が成長せずに卵巣にとどまってしまう原因で排卵ができず不妊の原因となります。
固くなった卵巣に穴を開けるドリリング術で排卵を誘導します。術後の排卵率は8割以上で、2か月から2年程度の効果がみこめ、自然妊娠の可能性を高めます。

腹腔内観察
(原因不明不妊)

特定の原因が見つからない不妊症に対して、腹腔鏡で腹腔内を観察し、隠れた問題を発見するための手術です。
隠れた癒着や小さな病変を発見し、処置することで、不妊の原因を取り除き、妊娠のチャンスを増やします。

異所性妊娠(子宮外妊娠)

受精卵が子宮外(主に卵管)に着床する異常妊娠です。緊急の処置が必要となることが多いです。
異所性妊娠は卵管を傷つけることがあり、将来的な不妊の原因となることがあります。腹腔鏡下手術で異常妊娠部位を除去することで、卵管の機能を保護し、将来的な妊娠の可能性を高めます。

腹腔鏡下手術の
メリット・デメリット

メリット

  • 傷が小さく、手術後の痛みも少ないです
  • 入院期間が短く、退院後はすぐに日常生活に戻れます
  • 手術後の癒着などの合併症が少ないです
  • 骨盤内の奥深くまで詳しく観察し、正確な処置ができます
  • 手術後に、手術中の写真をご覧いただきながら説明ができます

デメリット

  • 大きな子宮筋腫、癒着のある子宮内膜症など、一部適応外となります
  • 緑内障の既往がある方には適さないことがあります(眼圧が高くなることがあるため)
  • ごく稀に、合併症に対する開腹手術が必要になることがあります

腹腔鏡下手術と体外受精は
どちらが良いか

腹腔鏡下手術と体外受精はどちらが良いか腹腔鏡下手術と体外受精(IVF)のどちらを選択すべきかは、患者様のお身体の状態、ご希望などによって異なります。
両方が選択肢となる場合には、メリット・デメリットを正しく把握した上で選択することが大切です。

腹腔鏡下手術

主な適応として、卵巣嚢腫・子宮筋腫・子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群・異所性妊娠(子宮外妊娠)などが挙げられます。
病変や障害を改善・解消することで、妊娠を目指します。

メリット

低侵襲でお身体への負担が少なく、退院後はすぐに日常生活に戻れます。また、不妊の原因の根本的解決が期待できます。

適応

  • 卵巣嚢腫
  • 子宮筋腫
  • 子宮内膜症
  • 多嚢胞性卵巣症候群
  • 異所性妊娠(子宮外妊娠)

体外受精(IVF)

体外で卵子と精子を受精させ、できた受精卵を子宮に移植します。
卵管に問題がある場合、原因が男性不妊にある場合などに特に適しています。

メリット

精子・卵子の問題、卵管の閉塞をはじめとするさまざまな不妊の原因に対応が可能です。また身体に傷がつくことはなく、複数回の試行が可能です。
妊娠までの期間も短いです。

適応

  • 卵管閉塞
  • 卵子・精子に問題がある
  • 複数回の治療を試みたい場合
  • 他の不妊治療で妊娠に至らなかった場合
  • 複数の不妊治療を組み合わせる場合

治療法を選択する際の基準

不妊治療にはたくさんの種類がありますが、腹腔鏡下手術と体外受精の2つを比較した場合、一般的に推奨されるケースをそれぞれご紹介します。

腹腔鏡下手術が
推奨されるケース

  • 根本的問題(子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮内膜症など)を取り除くことで、不妊が改善する可能性が高い場合

体外受精が
推奨されるケース

  • 原因が精子や卵子の質の問題である場合
  • 腹腔鏡下手術後に妊娠できない・問題を特定できなかった場合

腹腔鏡下手術の流れ

1術前準備

事前に診察、血液検査、心電図検査などを行い、手術ができる状態であるかを確認します。
手術日の前日の夕食後以降は絶食となります。絶食時間は6~8時間以上を確保してください。

2麻酔

手術は、全身麻酔で行います。
手術中、痛み、恐怖心などは感じませんので、ご安心ください。

3手術開始

おへその下、下腹部等に小さな切開を加え、腹腔鏡(内視鏡)、鉗子等の器具を挿入します。
なお手術中は腹腔に炭酸ガスを注入し、術野を確保しています。

4診断・治療

子宮や卵巣、卵管などの状態を詳細に観察、診断します。
また卵管の癒着剥離、卵巣の摘出など、必要となる各処置を行います。

5手術終了

腹腔鏡や器具を抜き、炭酸ガスを排出させ、切開口を縫合します。

6術後管理

麻酔がから覚めるまで、院内でお休みいただきます。
数日程度入院していただき、問題がなければ退院となります。

7フォローアップ

1~2週間後にご来院いただき、手術部位の状態・経過を確認します。
その後、医師との相談の上、適切なタイミングで妊娠を図ります。

腹腔鏡下手術のリスク・副作用

感染症

感染対策には万全を期していますが、感染リスクはゼロではありません。感染を起こした場合には、抗生物質を投与し治療します。

出血

手術中に少量の出血が生じることがありますが、通常は一時的なものです。輸血を必要とする場合は極めてまれです。ご自宅で大量の出血がある・少量だがなかなか治まらないという場合にはご連絡ください。

 

臓器損傷

腹腔内の腸、膀胱、血管などの臓器が、器具との接触によって損傷してしまう可能性があります。損傷した場合、速やかに修復手術を行います。

麻酔関連のリスク

麻酔薬に対するアレルギー、呼吸・血圧の低下などが起こることがあります。麻酔科医が厳格に管理・モニタリングします。

腹腔内癒着

手術後、腹腔内の組織が癒着を起こすことがあります。必要に応じて、癒着防止剤を使用します。

炭酸ガスによる副作用

炭酸ガスが体内に残り、肩・胸の痛みを引き起こすことがあります。適度な運動、薬物療法によってガスの排出を促します。

血栓症

手術後、長時間にわたって安静にしていると、血栓が生じることがあります(深部静脈血栓症)。また血栓が肺に飛び、肺の血管を詰まらせてしまう(肺塞栓症)可能性もあります。弾性ストッキングの装着、間欠的空気圧迫法、早期の歩行開始などで、血栓の予防を図ります。

腹腔鏡下手術の費用

腹腔鏡下手術には、健康保険が適用されます。
入院期間と手術費用の目安は、以下の通りです。

項目 入院期間 手術費用(入院費含む) 1割負担者 3割負担者
腹腔鏡下子宮附属器腫瘍摘出術 5日~7日 634,094万円 70,510万円 195,610万円
腹腔鏡下腟式子宮全摘術 5日~7日 777,334万円 84,830万円 238,580万円

・使用する薬剤などによって、費用は変動します。
・切除部位が大きいほど、一般的に入院期間が長くなります(最長2週間程度)。
・腹腔鏡下手術は高額医療費制度(所得に応じた限度額を超える支払いが免除)の適用となる場合があります。

高額療養費制度の「限度額認定証」事前申請について

高額療養費制度の「限度額認定証」事前申請について高額療養費制度を利用する場合、予め「限度額認定証」の交付を受け、窓口でご提示いただくと、患者様のご負担が自己負担限度額内に抑えられます。事前に交付を受けていない場合も高額療養費制度を利用することは可能ですが、一時的であってもお支払額が多くならないように、健康保険組合などへの事前申請を行い、認定証の交付を受けておくことをおすすめします。
なお認定証は、受診する医療機関ごとに必要になります。