- 着床障害について
- 着床しづらい原因と治療
- 足立病院で行う着床障害検査と治療
- 流産率の低下が期待できる検査
「PGT-A」 - PGT-A臨床研究の対象者
- PGT-Aの方法
- PGT-Aのメリット・デメリット・限界
- 足立病院でのPGT-Aの流れ
着床障害について
体外受精・胚移植において良質な胚盤胞を2回以上移植しても妊娠に至らない場合には、着床障害(反復着床不成功=RIF)を疑います。
そのまま胚移植を続けても妊娠しない可能性が高いため、一度立ち止まって原因を究明し、適切な治療を行う必要があります。
なお着床障害の原因の一部については、不育症と共通していることが少なくありません。
着床しづらい原因と治療
胚の内膜への接着障害
子宮内膜ポリープ
子宮内膜に生じたポリープが、物理的に着床の妨げになっているケースです。子宮鏡検査にてポリープの有無を調べ、必要に応じて摘出します。
粘膜下子宮筋腫
子宮内膜下に生じた筋腫が、着床環境を阻害しているケースです。経腟的子宮筋腫切除術(TCR)を行い筋腫を取り除くことで、着床環境の改善を図ります。
子宮腔内癒着
子宮腔で癒着が生じ、移植した胚の着床が物理的に妨げられるケースです。経腟的子宮内癒着切除術(TCR)にて癒着を解消し、子宮内膜を正常な状態に戻します。
TCRは当院の医師が施行いたします。
卵管水腫
卵管に液体が溜まり、胚の移動・着床を阻害しているケースです。腹腔鏡手術にて卵管水腫を治療し、着床環境を整えます。
子宮腔の細菌叢のバランスの乱れ
慢性子宮内膜炎
慢性の子宮内膜炎も、胚の着床を阻害する原因になります。抗生物質の投与、炎症を改善する治療を行い、子宮内膜の細菌叢を正常化させます。
ラクトバチルス減少
子宮腔内でラクトバチルスという善玉菌が減少すると、着床環境が悪化することがあります。エンドメトリウム微生物分析(EMMA)で細菌叢のバランスを調べ、必要に応じて治療を行います。
子宮内膜の着床の準備が
できていない
着床の窓のズレ
着床にもっとも適した時期(いわゆる“着床の窓”)がずれていると、胚の着床が困難になります。エンドメトリアル・レセプティビティ・アナリジス(ERA)で“着床の窓”をより正確に予測した上で、胚移植を試みます。
子宮内膜が薄い
子宮内膜が薄い場合、胚の着床が困難になることがあります。患者様ご自身の血液を使った再生医療「PRP(多血小板血漿)療法」を行い、子宮内膜の厚みの改善を図ります。
移植胚が排出されてしまう
子宮内膜蠕動運動過剰
子宮内膜で過剰な蠕動運動が起こり、胚が子宮から排出されてしまうことがあります。異常な蠕動運動が疑われる場合には、医師が再度詳しく評価し、必要な対処・治療を行います。
血液・内分泌的な
異常がある
甲状腺・プロラクチン・糖尿
甲状腺機能の異常やプロラクチン値の上昇、糖尿病などの内分泌異常によって、着床に影響が出ることがあります。ホルモン異常を改善する治療を行い、内分泌バランスを整えます。
ビタミンD・銅・亜鉛
ビタミンDや銅、亜鉛といった栄養素が不足すると、着床環境が悪くなることがあります。血液検査で栄養状態を調べ、食事指導・サプリメント処方などを行います。
胎盤の血流が悪い
抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体は、胎盤への血流を低下させ、着床・妊娠の維持を妨げます。抗リン脂質抗体に対する治療を行い、着床・妊娠の維持を目指します。
血液凝固因子異常
血液凝固因子の異常も、胎盤の血流低下を招き、着床・妊娠の維持の障害が引き起こされることがあります。ヘパリンやアスピリンによる抗凝固療法を行います。
胚(受精卵)の染色体異常
夫婦染色体検査
夫婦の染色体異常が原因で着床が困難になっていることがあります。染色体検査で異常が認められた場合には、当院の臨床遺伝の経験豊富な医師の下で適切な対策を講じます。
着床前検査(PGT-A)
染色体異常の胚を検出する検査です。異常が認められる場合、着床前にその異常な胚を取り除き、着床・妊娠率の向上を図ります。
子宮に異常がある
子宮筋腫
子宮筋腫によって子宮内膜が影響を受け、着床の困難を招くことがあります。当院の内視鏡医師とのカンファレンスを行い、筋腫に対する治療・手術に進みます。
子宮形態異常
双角子宮などの子宮の形態異常があると、着床が困難になることがあります。形態異常の種類に応じた治療・手術を行います。
胚が免疫細胞に攻撃されてしまう
Th1/Th2比高値
Th1・Th2というヘルパーT細胞のバランスが崩れると、母体免疫が胚を攻撃することがあります。免疫バランスを整える治療などを検討します。
NK細胞活性高値
NK(ナチュラルキラー)細胞の活性が高いことで、免疫が胚を攻撃することがあります。免疫療法などを行い、NK細胞の活性を抑制します。
足立病院で行う
着床障害検査と治療
エンドメトリオ(ERA・EMMA・ALICE)
- 着床の窓のずれ
- 慢性子宮内膜炎
- ラクトバチルス減少
子宮内膜の組織を採取し、遺伝子発現レベルで着床障害の原因を調べる検査です。以下の3つの検査を同時に実施します。いずれの検査も痛みはありませんので、ご安心ください。
子宮内膜着床能検査
胚が子宮内膜に着床可能な期間(着床の窓)は0.5日です。この期間以外には着床ができません。子宮内膜着床能検査では、遺伝子レベルで個々の着床の窓を特定し、最適なタイミングで胚移植を試みます。
子宮内膜マイクロバイオーム検査
子宮内膜の細菌のバランスを、着床・妊娠と深く関わると言われるラクトバチルス菌の割合に着目し、分析する検査です。ラクトバチルス菌の割合が少ない場合、乳酸菌腟剤、サプリメントなどで補充します。
感染性慢性子宮内膜炎検査
子宮内膜炎の発症に影響する主な10種類の病原性細菌の有無を調べる検査です。陽性と判定された場合には原因菌を特定し、対処します。
子宮鏡検査
- 子宮内膜ポリープ
子宮の入口からファイバースコープを挿入し、子宮内な異常(炎症・隆起・癒着など)の有無、卵管口の状態のチェックを行います。小さなポリープ、軽度の癒着についてはその場で治療します。
子宮内膜蠕動検査
- 内膜蠕動運動
着床期(排卵後5~7日後)に超音波検査を行い、子宮内膜の蠕動運動の状態を確認する検査です。蠕動運動が停止していない場合、胚の排出が起こることがあります。これを防ぐため、胚の移植時に蠕動運動を抑制する治療を行います。
※四条烏丸レディースクリニックにて対応しております。
サプリメントによる
体質改善
(ビタミンD、亜鉛など)
ビタミンⅮ
ビタミンDは、免疫系の調節に関与すると言われています。不足している場合はサプリメントの内服を行うなどし、着床環境を整えます。
亜鉛
血液中の亜鉛濃度が低すぎる・銅の濃度が高すぎる場合、これが原因となって不妊症や不育症になっている可能性があります。亜鉛は銅と同じ吸収経路をたどり、互いに効果を打ち消し合う関係にあります。そのため亜鉛のサプリメントを内服することで銅の働きを抑制し、着床障害の改善を図ります。
PRP療法
- 子宮内膜が薄い
患者様ご自身の血液から作る「多血小板血漿(PRP)」を子宮内へと注入する再生療法です。PRPには細胞の成長・再生を促す作用があるため、子宮への注入によって子宮内膜を厚くする可能性があります。子宮内膜が十分な厚さを持つことで、着床率が改善することが期待されます。その他、胚移植が繰り返しうまくいかない場合の選択肢の一つとして検討されることがあります。
処置時期
基本的には月経から10日目頃と12日目頃に2回セットで行います。
リスク・副作用
PRP療法はご自身の血液を使用するため、アレルギー反応のリスクは低いと考えられていますが、すべての患者様に有効とは限りません。また、採血や注入に伴う感染症、注入部位の痛み、軽度の炎症や不快感を伴う可能性があります。治療を希望される場合は、医師と十分にご相談ください。
費用
PRP(多血小板血漿) 子宮内注入 |
1周期2回 | 165,000円 (税込) |
---|---|---|
1周期1回 | 88,000円 (税込) |
内視鏡下手術(TCR)
- 粘膜下子宮筋腫
- 子宮腔内癒着
内視鏡下手術(TCR)とは、専用の内視鏡(子宮鏡)を用いて子宮内腔を観察しながら、必要な処置を行う手術です。主に、粘膜下子宮筋腫や子宮内膜ポリープに対して行います。
その他、アッシャーマン症候群に伴う子宮内腔の癒着の解消も可能です。子宮内膜を傷つけないためには高度な技術と経験が求められますが、当院では熟練した内視鏡医師が執刀しますのでご安心ください。
PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)
- 着床前検査
受精卵の異常の主な原因は、染色体の数的異常と言われています。繰り返し着床が失敗に終わるケースでは、特に頻度が高くなります。
現在、生殖医療・生化学的技術の進歩により、着床前診断やスクリーニング検査を遺伝学的に行うことができるようになっています。2019年に日本産婦人科学会の認可がおりてから、当院でも導入している検査です。
流産率の低下が期待できる検査「PGT-A」
着床前胚染色体異数性検査「PGT-A」は、体外受精で得られた受精卵(胚)を子宮に移植する前に、胚の染色体異常の有無をチェックする検査です。胚の染色体異常は、妊娠の不成立・流産の原因となると言われています。
ご希望・ご検討される方は、条件に関わる以下の説明をお読みになった上で、外来受診日に医師にお伝えください。
※治療は保険適用ではなく、自費となります。
PGT-A臨床研究の対象者
※婚姻関係にあることが大前提となります。
反復して体外受精が
成功しない
直近の胚の移植を2回以上において妊娠が成立していない方
※生化学的流産も妊娠が成立していないと判断します。
反復流産
2回以上、連続して臨床的流産(胎嚢を確認した後に起こる流産)を経験している方
生殖に影響する染色体構造の異常が認められる
ご夫婦のいずれかに、生殖に関与する染色体構造異常が認められる場合
PGT-Aの方法
体外受精(ICSI)で得た胚を、胚盤胞まで育てます。胚盤胞となった段階で、将来的に胎盤となる部分から細胞を採取し、検査会社の協力を得て染色体の状態を調べます。結果が出るまでは、3~4週間かかります。
検査の結果が出て、染色体異常のない胚を融解し、子宮へと移植します。
※胚盤胞が得られない場合、検査ができません。
※移植に適さない胚は、廃棄処分となります。
PGT-Aの
メリット・デメリット・限界
メリット
胚移植ができた場合、通常より妊娠率が高く、流産率が低くなります。
ただし、採卵しても正常胚がない場合、胚移植ができないことがあります。
デメリット
胚盤胞から細胞を採取することで、胚に影響を及ぼす可能性があります。また正常胚移植ができた場合も、妊娠しない・流産するということがあります。
染色体異常のある胚は移植しないため、結果的に移植する胚の数が少なくなる、あるいは移植できないことがあります。
この検査は、自費診療扱いとなります。1つの胚あたり、99,000円(税込)がかかります。
限界
検査対象となる細胞は胚を構成する細胞のうちのごく一部であり、検査結果に胚全体の状況が反映されない可能性があります。
そのため、「染色体異常があると判定されたが実際は染色体が正常な胚であった」「異常なしと判定されたが流産や死産になる・染色体異常を有する赤ちゃんが生まれる」という可能性をはらみます。
足立病院でのPGT-Aの流れ

- 担当医に直接、PGT-Aを希望していることをお伝えください。
- PGT-A説明会動画をご覧いただきます。診察時、視聴に必要となるパスワードをお渡しします。
- PGT-Aを行うにあたり必要な検査(夫婦染色体検査、抗リン脂質抗体症候群の検査など)があれば、実施します。
- 遺伝外来にて、遺伝カウンセリングを行います。ご夫婦での受診が必要です。
- ご夫婦連名の同意書を作成し、PGT-Aを実施します。
重要事項
- PGT-Aで赤ちゃんの性別を知ることは禁止されています。
- 1回の胚移植において、移植できる受精卵は1つに限られます。
- いずれの段階においても、条件を満たさない場合、PGT-Aを受けることはできません。
- 以前に凍結保存した受精卵に対して、新たにPGT-Aをするはできません。